このテーマは永遠のテーマだと思う。
「医者になるとモテる。」
この話、本当だと思いますか?
私は半分だけ本当だと思っています。
正確には、
医学生時代は女子医学生にまったく相手にされなかった男子が、研修医になった途端、急にモテ始める。
そして一定数が調子に乗る。
女子医学生だった私は、このときからその片鱗をかいま見ていたのだ。
自分が医学生だからもちろん同級生も医大生。イケメンもそれなりにいたし、その反対もいたし、スポーツできた人もいたし、ぶさメンでもなぜかいつも彼女が絶えないなんて人もいた。
でもやっぱり看護学生やその他職種の卵たちと合コンしていたのは男子が多かった。
そして特徴的だったのは、女子医大生にはモテなかったやつほど、多職種でモテ始め、調子に乗っていくその様である。
今回は実際に私が
「お前、一回生まれ変わってこい。」
と思わず言ってしまうほど調子に乗った、元非モテ同級生の話を紹介しようと思う。
これを読めば、「なぜ今までモテてこなかった医大生が急に勘違いするのか」が少し分かるかもしれない。
彼は現役で医学部に合格してきた頭のいいやつだった。
しかし、お調子者がすぎるのにプライドが高く、そのうえ極度のなで肩。
白衣を着ても「着こなしている」というより「白衣に着られている」。
そんな感じだった。
だから同級生女子たちは当然彼に男を感じることもなく、嫌われさえもしないが重宝もされない、完全に友達止まりの存在だった。
彼は軟式野球部だったが、そこでもこのキャラは炸裂しており、後輩や先輩女子からもまた同様に見られていた。
つまり、医大生時代は彼女はできなかった。
なぜ彼についてこんなに語れるのかというと、彼とは実習がしばしば同じになり話す機会が多かったからだ。
彼は彼女こそできなかったが、それなりに楽しそうにキャンパスライフを送っており、女性に対してはとても謙虚だったため、私は友人としては好意的に思っていた。
時は流れ、お互い国試も合格していよいよそれぞれの道へ。
……たまたま初期研修先が彼と不覚にもかぶってしまった。
嬉しくもないが、まあ知り合いがいてよかったか、くらいのテンションでその時を迎えた。
初めて医師として日々悪戦苦闘していたある日、私はある変化に気づいた。
そう、彼の頭頂部が段々と薄くなってきていることに。
突っ込みたかったが、どうやら本人も少し気にしている様子だったため、温かい目で見るようにしていた。
まあ、仕方ないよな。
……そんな優しい私の気持ちとは裏腹に、別の意味で彼はどんどん変わっていった。
以前より女性との距離が妙に近い。
看護師さんと楽しそうに話している姿を見かけることも増えた。
「あれ、こんなタイプだったっけ?」
と思うことが少しずつ増えていった。
でもそのときは、「まあ医者になったし環境も変わったからかな」くらいにしか思っていなかった。
そんなある日の仕事終わり。
帰宅途中の路地で彼の姿が遠くに見えた。
「何やってんだ、こんなところで。」
そう思って「おーい!」と声をかけようとしたが、ためらった。
女性ともめている。
ええ……??
大丈夫か?
よく見ると、しゃべったことこそないが見たことのある看護師さんだった。
様子を見ていると、
「僕を信じてくれよ!幸せにするから!」
漫画のようなセリフとともに、彼は急にその女性に抱きついた。
おいおいおいおい。
捕まるぞ。
さすがに駆け寄ろうとしたその瞬間、
バシーーン。
と音が聞こえてきそうなほどの張り手を彼はくらっていた。
強い女性でよかった……
じゃなくて、
えええええ!?
何が起きた!?
あからさまな修羅場。
そして彼に女の影なんてないと思い込んでいた私の脳内は大パニック。
少々面白がってしまった私に気づかないまま、颯爽と去っていこうとする彼女を、彼は必死に追いかけていった。
速攻で彼と仲のいい共通の友人に連絡した。
すると返ってきた反応は驚くほど冷ややかだった。
「ああ、ほっといていいよ。」
「なんかあいつ、研修医になってからちょいちょい看護師さんにちやほやされて調子に乗っちゃってさ。気をつけろよって言ったのに聞かなんだよ。」
「え、そういうこと?でも女性に抱きついてたよ!?さすがにやばいだろ。」
「ああ、たぶん彼女さんだと思うよ。最近浮気したんだって。それで修羅場になってたらしい。」
なるほど……
いや、なるほどじゃねー。
あいつが浮気だと?
確かに悪いやつではない。
でも浮気していいほど有力な人材でもねーぞ!?
……と、いささか彼に失礼な感想が頭をよぎった。
のんきに知らなかったのは私だけで、彼の女性に対する調子のよさは周りのみんなもうすうす気づいていたらしい。
きっと口八丁手八丁、いいことを並べて若い看護師さんにアプローチしていたに違いない。
後日、彼に「あの日見ちゃったんだけど」と話を振ってみた。
すると、
「いやー、あいつがさー、変なこと言うから説教してたんだよ。俺、浮気なんかしてないのに。」
……なぜ上から目線。
そして、なぜ嘘をつく。
かっこつける。
いろいろダサすぎるぞ。
言いたいことがあふれすぎて気持ちがむずむずしてしまった私は、
「お前、一回生まれ変われ。」
そう言い残し、去ることしかできなかった。
数日後。
共通の友人たちから、しばしばこんな報告をもらうようになった。
「なんかさ、のりゆきが、はる子に『死ね』って言われたって、めっちゃ被害者ヅラして言い回ってるらしいよ(笑)」
……言ってねぇ。
「生まれ変われ」と「死ね」の間には、とてつもない隔たりがある。
結局、勘違いしている人には周りの声は届かない。
医学生時代の彼は、決して嫌なやつではなかった。
むしろ謙虚で、一緒にいて楽しい友人だった。
人を変えたのは「医者」という肩書きだったのか。
それとも急に手に入った「モテ」だったのか。
今でも分からない。
でも一つだけ確かなのは、
急に評価され始めた人ほど、自分を見失いやすい。
あの日の彼を思い出すたび、私は今でも心の中でつぶやく。
「お前、一回生まれ変わってこい。」

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