この記事のきっかけ
あれはアトピーが発症し始めていたころのこと。仕事は忙しく、肌も荒れ始め、心身ともに疲弊していた。見た目もどちらが患者かわからないほどで、これまで医療の世界しか知らなかった私は、「いっそのこと仕事をセーブして、好きなことをやってみたい」「医療から一度離れて休みたい」という気持ちが強くなっていた。
当然、友人も医療関係者ばかりで、いわゆる“世間知らず”な状態だった。時事ネタや他業界のことに意識を向ける余裕もなく、情報弱者の20代。そんな時、「医療業界以外の人と知り合いたい」と思い、異業種交流会に参加したのがすべての始まりだった。
若かったあの頃、女医は「いいカモ」だったな――と、今では笑えるが、当時の自分には衝撃的な出来事だった。
アトピーとストレスで心が弱っていた
自分では気づいていなかったが、心身ともに限界を超えていたように思う。判断力も落ちていたが、それが“普通”になっていた。
当時は、異業種交流会やカフェ会、街コンなどが流行っており、「せっかく都会にいるんだし、そういうこともやってみたい」という中二病的なノリもあって参加してみた。
とにかく、医者という職業が珍しがられる。 普段出会うことがないらしく、「わ〜医者の人と初めて話した!」なんて言われることもしばしば。 そんなに珍しいのかと思いつつも、声をかけられることが多く、誘われるがままに“個別に会う機会”が増えていった。
健康意識が高まりすぎていた
アトピーが悪化し始めたことで、初めて「健康」に意識が向いた時期でもあった。医者は一般的にサプリメントを積極的には推奨しないことが多いく、「サプリは肝障害のリスクがある」という話もある。(すべての医師、サプリメンではありません。)
そんな中で出会ったある人物から「すごくいい商品がある」と言われ、なぜか心が動いてしまった。当時の私は、「よさそうなこと」に飛びつきやすい状態だった。
肌荒れは原因不明で、皮膚科に通ってもなかなかよくならない。医者も忙しく、話をゆっくり聞いてくれるわけでもない。その不安の中、誘われたお茶の席に参加してみることにした。
マルチっぽい話に誘われた体験談

そのお茶の席までのやりとりで、共通点があった。誘ってきた人だけでなく、「その人の知り合いもあなたに会いたがっている」と言われ、別の人物も登場してくるのだ。ここから徐々に違和感が出始めた。
LINEで誘われた「栄養と美容の話」
LINEでのやりとりでも、「次はこんな人に会ってほしい」「有名人も来る」「鍋パーティーがある」「お医者さんもいるよ」と言われる。とにかくふんわりした言葉が多い。
私はとりあえず、二人きりの個室は避けるようにしながら参加してみた。そこで「これは何の話なのか?」と尋ねると、
「うーん、みんなでビジネスしてるって感じかな。有名人に会ったり、手伝ったりしてるよ。お医者さんもいるよ〜」
と言われ、よけいに混乱。とにかく、すべてが抽象的なのだ。
あるとき、「有名な美容師さんが来るから、一緒に来ない?」と誘われた。「髪質を見れば健康状態がわかる」と言われ、当時肌は荒れていたが髪だけはキレイだった私は、興味本位で参加してみた。
結果、その美容師から得たものは特になく、サプリを紹介されただけ。「最近の野菜や果物は栄養がなくて〜」という定番の話から、「このサプリだけで必要な栄養素が全部とれる!」という流れに。
私は「じゃあサプリだけで生きられるの?」と質問してみたが、返答は曖昧。しかも、出てくるサプリの数が異常に多い。棚にびっしりと並んだ大量のボトルに驚いたのを覚えている。
「一緒にビジネスしないか?」と言われたときの違和感

なぜ私がそこまで付き合ってしまったのか。それは相手が悪気のない雰囲気で、親切にしてくれているように“錯覚”していたからだ。
そんなある日、「一緒にビジネスしないか?」と言ってきた男性がいた。意味がわからず、詳しく話を聞いても出てくるのは商品の話ばかり。「こんな歯磨き粉がある」「このサプリがすごい」など。
そしてまた別の“有名な人”を紹介される。その人からは、「俺は商品のこととかどうでもいい。どう稼ぐかが大事」なんて話を唐突にされて、さすがに違和感が爆発。ぐったりした私は、最初に出会った人に「もう無理」と報告した。
すると、「ごめんなさい、てっきりお金を稼ぎたい人だと思ってた」「この話、他の人には言わないで」など、妙に“秘密にしてほしい”ことを強調された。
私は人を紹介してくれとも頼んでいないし、目的も曖昧すぎる。とにかくすべてがふんわりしていた。
若い女医がカモられやすい理由

観察していて気づいた共通点がいくつかある。
- 一人と会うと、必ず次回の約束を匂わせてくる
- 人を紹介してくる
- 群れで行動している
- みんな自分の生活や将来にどこかしら不安を抱えている
- 自由な働き方、お金持ち、キラキラした生活に憧れている
ある意味、彼らは“救い合っている”ようにも見えた。でも私は、群れるのがそもそも苦手なので、途中で冷めてしまった。
収入はあるが、情報リテラシーが低い
この件を異業種交流会で出会った投資家の人に話したところ、「そういう話、よくあるよ。もしかしてマルチかもね」と言われて、ようやく腑に落ちた。
今思えば、その投資家も若干あやしかったけど(笑)。
当時の私は、女医でまあまあの収入はあったけど、ビジネスや世間の仕組みにまったく疎かった。実家が裕福な“お嬢様”も多く(はる子のことではないw)、一定数の医師が世間知らずであるのは事実だと思う。つまり、いいカモだったわけである。
「医者=断らなさそう」という偏見
「医師(女医)=断らなさそう」って、実は“いい人そう”だからじゃない。
むしろ、
- 疑う経験が少ない
- 論理的なはずなのに“曖昧な話を飲み込みがち”
- 医師によっては共感力が強く、相手を否定しない態度が“同意”と勘違いされやすい
こういう“隙”があるから、狙われる。(※しっかりしている医師もいます!!!)
さらに言えば、「忙しいから断らない」というよりも、 知識がないまま、気づかないうちに“無防備”になっていたのかもしれない。
お金で解決できてしまうという前提があるからこそ、 いちいち疑ったり深く考えたりすることが抜け落ちていた。
そして何より、私は知らなかった。 人を利用してでもお金を稼ごうとする人たちが、“本当に存在する”という事実を。
そんなのはドラマやフィクションの中の話だと思っていた。 でも違った。そういう人たちは現実にいて、そして思っていたより“ふんわり”と近づいてくる。
その存在を知らなかったことが、一番の”隙”だったんだと思う。
健康って、食事や運動だけではなかった

幸い、私は「群れるのが面倒」「お金儲けに興味がない」という性格だったため、途中で距離を置くことができた。
でも、もしあのとき「自分、今ちょっと疲れてるかも」と気づけていたら、あんなにフラフラとついて行かなくて済んだかもしれない。
違和感って、“無視できる人”じゃなくて、“気づける人”が強いのかもしれない。
疑問を飲み込まず、「なんで?」「どういう意味?」と聞いていい。「ちゃんと知ろうとすること」、それだけで立派な自己防衛だと思う。
経験って大事。医療の世界にいると、どうしても“正しいこと”だけを信じがちだけど、世間には“ふんわりした正体不明なもの”が想像以上に多い。
健康って、食事や運動だけの話ではなかった。
いろんな人と話して、
いろんな世界があると知ったとき、
少しずつ心が落ち着いていくのを感じた。
あの時、必要だったのは栄養でも薬でもなく、
「自分は無知だった」と気づくことだったのかもしれない。
このあとすぐアトピーが良くなったわけではないけれど、
人間関係を見直したり、環境を変えたりしたことで、少しずつ心が落ち着いて、
肌にも変化が出てきた。
今思えば、自分に合わない場所に無理していたことが、
じわじわと不調につながっていたのかもしれない。
いろんな人と話して、いろんな世界を知ることも——
“健康”のひとつの形だったんだ、と。
※この記事についての補足
これはあくまで私の実体験に基づく話です。
特定の団体や商品、マルチ商法全体を否定する意図はありません。あくまで、当時の私が感じた違和感を記録したもので、同じような違和感を覚えた方の参考になれば幸いです。
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